A story of Drifting Ice
MAGADAN,RUSSIA
SHIRETOKO,HOKKAIDO,JAPAN
A Journey of the Drifting ice北海道の東の果てにある知床半島という場所は世界自然遺産に認定され多くの観光客が訪れる名所である。豊かな自然が四季を通じて様々な表情を見せることで有名だ。その中でも冬になると流氷が知床の海一面に広がりを見せる。巨大な氷の塊が無数に浮遊しそれが海一面に広がり近づくとギシギシと音を立てる様相には大変驚かされた。私は日本の中でも比較的温暖な土地に生まれたので寒い土地の環境について知らないことが多かったし、そもそも流氷というものが何なのか、一体どうやってできるものなのか分からなかった。リサーチしていくうちにそれが遠いシベリアの海から流れてくるものだと知った。さらに流氷は海の水から生成されるものではなく、ロシアを流れる大河アムール川の真水が季節風によって冷やされ大量の凍った水がオホーツク海を覆い、それが南下して日本にやってくるということだそうだ。そして流氷の裏側に付く植物プランクトンは日光を浴び繁殖し、動物プランクトンが植物プランクトンを餌にすることで大量に発生し、それを小魚が食べ、さらに大きな魚がその小魚を食べに来ることで素晴らしい食物連鎖が起こり、オホーツク海の豊かな生態系は我々人間の生活を支えている。知床の海で見えるそれが海で生成されたものだと思っていたので大変驚きを感じた。それと同時に人間社会の制度の中で国という線を引き、隔てられた二つのロシアと日本という異なる場所は、自然界で起こっている現象の中では、そういった概念を軽々飛び越えてくれる存在であると改めて気づかされたし、不思議と安堵する自分もいた。2019年1月から流氷の起源を辿る旅に出た。オホーツク海沿岸にある流氷の始まりの街マガダンへ訪れた。流氷はもちろん、そこに暮らす人々や街の風景、知床の土地とは反対に広がるオホーツク海を眺めた。滞在は短かったが、マイナス20度から30度にもなる中毎日6~7時間ほど歩き二つの土地を写真で身体的な地図を制作した。地球環境の問題では温暖化や気候変動の影響でオホーツク海の流氷が年々減少をしているということを、知床とマガダンに住む現地の人々から聞くことがしばしばあった。流氷の起源を探し、流氷の移動に着目することによって、いかにオホーツクを取り囲む周辺の国々にとって流氷の存在がいかに大事であるか気付かされた。自然界で起こっている深刻な問題が我々人間社会の分断をも促進させているようなメッセージかもしれない。このプロジェクトは知床の街によるアーティスト招聘プログラムの一環によって行われたものであるが、知床という街を知ることが、遠く離れた対岸まで足を運ぶとは思ってもみなかった。この作品は、二つの土地を繋ぐ流氷がある地点からある地点まで移動することを想像する行為をするによって、私たちの暮らしや、取り巻く環境について考察したものである。